【参加レポート Vol.1】Shopify DotDev 2026 に行ってきました — DotDevとは・現地ハイライト編
2026年7月21日〜22日、カナダ・トロントでShopify DotDev 2026が開催されました。Shopifyが開発者とパートナーのために年に一度開く技術カンファレンスで、当社Flagshipからは4名のメンバーが現地で参加、担当領域を手分けし、キーノートからワークショップ、ブースでの相談まで、2日間で34のセッションと会話を記録してきました。翌日のコミュニティイベントを含めると43本になります。
このレポートはシリーズでお届けします。初回となる今回は、DotDevというイベントそのものの紹介と、現地で特に印象に残ったハイライトの紹介です。各テーマの詳しい内容は、続編のレポートで1つずつ掘り下げていきます。
この記事でわかること
- → Shopify DotDev 2026とはどんなイベントか
- → パートナーに向けて示された具体的な数字と約束
- → 今年の主役Agentic Commerce、UCPとCatalog
- → SidekickやRiverなどAI関連の注目発表
- → 現地の熱気と体験ブースの様子

DotDevとは
DotDevは、Shopifyが開発者とパートナーのために開く技術カンファレンスです。Shopifyの新機能とこれからの方向性が最初に語られる場で、世界中からアプリ開発者やエージェンシーが集まります。今年のオープニングでは、会場だけで68カ国が集まっていると紹介されました。ここでいう「エージェンシー」とは、Shopifyを使ったECサイトの構築・運用を専門的に代行する制作会社・支援会社のことです。ネットショップを立ち上げたい事業者に代わって、デザイン・開発・マーケティングなどをまとめてサポートする存在だと考えるとわかりやすいと思います。
プログラムは発表を聞くだけではありません。キーノートやブレイクアウトセッションに加えて、手を動かして学ぶワークショップ、プロダクトチームの担当者と直接話せるブースが並び、発表された機能をその場で確かめたり、自分たちの案件で抱えている疑問を開発者本人にぶつけたりできるのが特徴です。
2日間には、はっきりした役割の違いがあります。
| 日程 | 位置づけ | 主な内容 |
|---|---|---|
| Day1(7月21日) | プロダクトの日 | 新機能の発表と技術セッションが朝から夕方まで続く |
| Day2(7月22日) | パートナービジネスの日 | CEOのTobi LütkeとPresidentのHarley Finkelsteinの対談、他プラットフォームからの移行事例、AI時代のエージェンシー経営 |
今年の話題の重心は、はっきりとAIにありました。以前の参加時と比べても、AIエージェントが人の代わりに買い物をするAgentic Commerceへと話題の中心が大きく移っており、Shopifyがそこへ舵を切っていることが、2日間を通して伝わってきました。当社にとってこの出張は、その次の一手を一次情報で確かめ、日本のプロジェクトに持ち帰るためのものです。
パートナーに向けて示されたこと
初日は、Atlee Clarkによるパートナーエコシステムの話から始まりました。「この部屋、つまりShopifyとそのパートナーエコシステムが、コマースの次の時代を定義する」——そう述べたうえで、これからの10年は特別なものになる、と続けます。そして具体的な数字がいくつも示されました。
まず、長く不満の対象だったアプリ審査の待ち時間です。ピーク時には最大40日かかっていたものが、現在は4日。「Shopifyに11年いるが、4日だったことは一度もない」という言葉とともに紹介され、ここは会場から拍手が起きていました。パートナーからのサポート問い合わせも、経路を作り直した結果、1年前の4倍の速さで回答できるようになったといいます。
報酬の考え方も変わります。ストアを構築してローンチしたパートナーが、そのマーチャントのGMV(流通総額)の成長を分け合えるようにする、という新しいモデルです。壇上ではこれを「同じ側のテーブルに着く」と表現していました。前年のレベニューシェアの支払額は13億ドル、Shopifyが1ドル稼ぐごとにパートナー側はその7倍を生み出している、という数字も共有されています。
直近6か月で世界70か所でパートナーミートアップが開かれたことも紹介されました。ニューヨークやロンドンといった定番の都市に加えて、ヴィリニュス、イスタンブール、台北、そして福岡の名前が挙がっています。

現地ハイライト
現地で見聞きした中から、特に印象に残った7つを紹介します。
1. AIが買い物をする時代の共通ルール「UCP」
今年の主役はAgentic Commerceでした。その土台としてShopifyがGoogleと共同で開発したのが、AIエージェントがどの店とも同じ作法で取引できるオープンな共通プロトコルUCP(Universal Commerce Protocol)です。2026年1月に公開され、4月に大きな更新、次のリリースは8月に予定されています。DotDevで初めて出てきたものではなく、すでに動いているものの現在地が語られた、という位置づけです。
セッションには、UCPを共同で生み出したMani Fazeli(VP Product)と、HTTPやTLSといった標準づくりの背景を持つIlya Grigorik(Distinguished Engineer)が登壇しました。囲い込むためではなく、エコシステム全体に広げるためのインフラとして設計したという思想が語られ、目指すのは「集約ではなく拡散」——数社の巨大プレイヤーに需要が集まる形ではなく、無数のコマース体験がマーチャントにつながる形だと説明されました。チェックアウトを固定された手続きではなく、AIと店との間で条件をすり合わせていく多段階の交渉として捉え直す、という設計の視点も印象的でした。UCPはすべてのマーチャントのストアフロントで既定で有効になっており、特別な設定は要りません。
2. パートナーにとっての新しい土台「Catalog」
UCPと並んでもう一つ、繰り返し語られたのがCatalogです。商品検索のためだけに作られた検索エンジンで、汎用の情報検索とは別のものとして設計されています。商品には「どれくらいおしゃれか」のように数値化しづらい概念がついて回り、しかもそれは誰が尋ねるかによって、ミラノとオタワとでも変わってしまう。だから専用のものが要る、という理屈です。
Day2の対談で、なぜそこまで熱を上げるのかとHarley Finkelsteinに正面から問われたTobi Lütkeは、「本当に、本当に素晴らしい企業が、Catalogの上から生まれてくる」と答えています。これまでこの土台が存在せず、商品検索を作ろうとする人は情報検索のために設計された道具を借りるしかなかった、というのがその理由でした。だからこそ専門家の手で、C++の1行目から独自に作り上げたのだと語っています。
APIキーはDev Dashboardの目立つ場所に置かれ、Shopify自身はこの上に製品を作るつもりはない、パートナーに存分にやってほしい、という姿勢がはっきり示されています。Tobi自身も、自分のエージェントに予算とAPIを渡して買い物をさせており、それを通じて新しいマーチャントを見つけたと話しています。
キーノート側でも、Catalogに関する2つの機能——サインインしたユーザーのデータで検索結果を並べ替えるPersonalizationと、購入が発生したときにアプリ開発者に手数料が入るCommission——が紹介されています。パートナーにとっての「機会」という意味では、UCPよりも直接的な話かもしれません。

3. それでも「お店」はなくならない
一方で強調されたのが、AIが入口になってもストアフロント(お店のサイト)は消えないという話です。データとして示されたのは2つ。AI経由は自然検索より80%高い率で成約すること、そしてAIセッションの50%が商品ページに着地することです。AIが関わっている場合でも、サイトそのものはまだ取引の中にある——見た目や速さ、語られる物語が、ブランドを信頼してよいかどうかの判断を支えている、という説明でした。
AIが得意なのは、電子機器やサプリメント、時計のように、属性が標準化されていて比較しやすいカテゴリです。逆にファッションやアパレル、ライフスタイルのように、幅や色だけでは選ばないものをどう扱うかが、いま投資している課題だと語られました。
4. マーチャントの隣に立つAI「Sidekick」
Shopify管理画面のAIアシスタントであるSidekickも、大きく扱われたテーマです。外部アプリと連携するApp Extensionsの仕組みが6月に公開され、18社のパートナーと一緒に形を作りました。公開から約6週間の時点で、その18社のアプリの操作を含む会話がすでに50万件、連携済みのアプリは160を超えたと紹介されています。別のセッションでは、公開から6月末までのわずか2週間で、Sidekickがアプリの機能を467,000回呼び出したという数字も出ていました。
マーチャント自身がSidekickに頼んで小さなアプリを作る事例が数千件あるという話もありました。これはDotDevでの新発表ではなく、前回のShopify Editions Winter '26で公開された機能です。在庫補充のレポートから保証の管理まで内容は幅広く、Shopify側がほとんど宣伝しなかったため、マーチャントはSidekickとのやり取りの中でこの機能に気づいていった、という経緯が語られました。
一方で、Sidekickがデータを変更する操作の前には人の承認を挟む設計が貫かれています。下書きまでは作るが、マーチャントが確認して保存を押すまで実際の変更は走らない。AIに任せる部分と人が握る部分について、Shopifyが明確に線引きする戦略をとっていることを再確認しました。お店を運営する人が安心してAIの力を活用できる工夫が、一貫して組み込まれています。

5. 作り手の道具も、AI前提に作り直される
サイトを作る側の道具立ても、軒並みAI時代向けに見直されていました。
テンプレート言語のLiquidは、テーマエディタからノーコードであらゆるページを編集できるようにする過程でテンプレートのJSON化が進み、その結果として裏側のコードは読みにくくなっていました。しかし、AIによって誰でもコードを編集できる時代になったことを受けて、今度はAIが編集しやすい形に戻す、という方針転換が発表されました。「このボタンを青にして」と伝えれば済む宣言的な姿を目指すということです。新しい「Base」テーマではコレクションのテンプレートが100行あまりまで縮み、現行のHorizonと比べて93%少ないコード量になっています。
ヘッドレス構成で使われるHydrogenは、Vercelと組んで、特定のフレームワークに縛られない形へと作り直されます。面白いのは経緯で、両社は半年ほど前にそれぞれ別々に同じ結論——中核をオープンにして、フレームワークは選べるようにする——にたどり着いており、違いはパッケージの名前空間くらいだったため、すぐに手を組んだのだそうです。
アプリ開発者向けの分析基盤も一新されます。これまでアプリ開発者は分析機能を自前で実装する必要がありましたが、Shopifyネイティブの分析との統合が進み、データを一度Shopifyに預ければ、レポートにも自動化にも使い回せるという構想が示されました。「今日あなたが送ったデータが、明日AIエージェントが問い合わせるデータになる」というのが、その要旨です。
ウェブの未来を巡るTobi LütkeとVercelのGuillermo Rauchの対談でも、エージェントが操作するウェブが当たり前の前提として語られていました。ファイルシステムによるルーティング、CLI、小さく組み合わせられるプログラム、オープンな標準——人間にもエージェントにも読めて直せるものへ回帰する、という話です。道具の作り直しは、その準備なのだと感じました。
6. Shopify自身もAIで動いている
Shopify社内のAIエージェントRiverの舞台裏を明かすセッションも印象的でした。Shopifyの技術ブログで先日紹介され、当社のコラムでも取り上げたものです。
Riverは社内のSlack上で動くコーディング支援で、コードを調べ、設計を相談し、Pull Requestを出してレビューまで回します。特徴は、それが全部公開の場で行われることです。誰でも会話を覗けて、途中から口を挟める。2月13日の公開から5か月で約275,000セッション、社員の90%が使い、マージされたPull Requestは27,000本(6月だけで8,000本)。直近1か月にShopifyのリポジトリで作られたPull Requestの、およそ5本に1本がRiver経由だといいます。ただし、マージするかどうかを決めるのは人です。
特別な技術というより、公開の場でのやり取りと仕事の履歴という素朴な材料の積み重ねで成り立っているのが示唆的でした。自分の内部の状態と外の環境を観察し、足りないところを見つけて自分自身を書き換えていく——そんなソフトウェアのあり方が目標として語られ、生き物のように振る舞い始めているという表現が、この日の空気をよく表していました。
個人の実践としても語られています。TobiはDay2の対談で、自分のエージェントを「clanker」と呼び、5ドル程度で立ち上げてくれるサービスを使ってOpenClawのようなエージェントを一度組んでみることを勧めていました。散らかっているけれど、それが素晴らしい散らかり方で、自分が惚れ込んだ頃のインターネットに似ている、と。
7. 会場で「触れる」AI
展示ブースでは、発表を体験に落とし込んだデモが人気でした。商品写真が1枚あれば全身から靴、髪型までリアルタイムに試着できるバーチャル試着「Fit Check」は、3Dモデルを用意しなくても、カタログにある何百万点の商品で動くとされています。素材と物理の学習が効いていて、金属は光り、スエードはマットなまま、スパンコールは光を拾い、房や鎖は本来の動きをする、という説明でした。
もう一つの「マジックミラー」は、カメラと画面とPCさえあれば動きます。来店客一人ひとりに合わせたメッセージと商品提案を返し、他のシステムとつないで割引コードの発行やレシートの印刷までその場でこなします。もとはウェブカメラとモニターとノートPCの試作品だったものが、いまでは数千人規模の顧客に使われているとのことでした。
この試着ミラーには後日談があります。Day2の対談でHarley Finkelstein自身が、前日に実際に試して衝撃を受け、その場で自分の好きなマーチャントにFaceTimeをかけて「これを見てくれ」と伝えた、という話を披露していました。スライドの中の話だったAIが、目の前で動いて手に触れられる距離にある——そのことを、経営陣自身が体験として語っていたのが印象的でした。
残るのは、Data・Taste・Distribution
Vanessa Leeによるキーノートの締めくくりで示されたのが、この3つの言葉でした。コードを書くことが誰にでもできるようになれば、コードそのものの価値は下がっていく。それでも残る価値の源泉は、独自のData(データ)、Taste(感性や視点)、そしてDistribution(届ける力・つながり)である——という主張です。
エージェンシーであれば、自分たちならではの角度や洞察を持っているか。AIで効率化が進むほど、何が差別化として残るのか。AIの話一色に見えた2日間の結論がここに置かれていたことを、当社も自分たちへの問いとして受け取りました。

翌日はコミュニティの日
DotDev本編の翌日7月23日には、ShopDev Alliance と Design Packs が主催するコミュニティイベント Brightwork Vol.01 にも参加しました。約200人が集まり、15分のトークが6本とパネルが1本、あとはひたすら話す時間という構成の、親密な会です。

印象的だったのは、独立系のアプリ開発者やエージェンシーの登壇者が、そろってAI時代に何が事業の強みとして残るのかを語っていたことでした。前日までの本編で示されたData・Taste・Distributionという答えを、現場の側から裏づけるような一日だったと思います。この様子も続編で紹介します。
まずはイベントの全体像と現地の熱気をお伝えしました。続編では、UCPとCatalog、Sidekick、ストアフロントの作り方の変化などを、1テーマずつ掘り下げていく予定です。どうぞお楽しみに。
