【DotDev 2026 参加レポート Vol.3】Shopify Catalog — 人ではなくAIのための、商品の検索エンジン
アーキテクトのReonaです。2026年7月、カナダ・トロントで開かれたShopify DotDev 2026に参加してきました。第1回ではイベント全体のハイライトを、前回はRossellaがLiquidのAI時代における方針転換をお伝えしました。今回はそのうちの一つ、Shopify Catalogを扱ったセッションを取り上げます。
これまでのECは、人間のためのものだった
商品を増やすと、かえって探されなくなる。ECを運営されている方には、心当たりのある感覚だと思います。SKUが増えるほど店内検索が当たらなくなり、絞り込みを足し、特集を組み、トップページを作り直す。売り場を整える仕事は、扱う商品が増えるほど増えていきます。
Shopifyの上位プランであるShopify Plusのページでは、1分あたり1万件以上のチェックアウト、そして「10億ドル規模のブランドが100万点を超える商品とバリエーションを難なく扱える」が並んでいます。これらの基盤は、AIの時代でも価値が薄まるものではありませんが、1つのストアに100万点が並んでいても、実際に訪問するのは人間であり続けてきました。

Shopify Catalogを扱ったセッションで、ShopifyのKate Ragotte(Senior Staff Product Manager, Agentic Commerce)はこう語っています。「人が扱えるデータ量には限りがあるので、私たちは既に知っていて信頼しているブランドに寄りかかる。しかし、AIが「好みの信号」を計算できるようになったら、買い手が名前を聞いたことのないブランドでも、条件が合っていればその人の前に差し出せる」と語られました。
AIが商品を検索し、購入するようになると、これまで上限だと思っていたものが外れます。買い物の仕方が変われば、ストアの運営者が注力すべき先も変わります。Shopify Catalogのセッションに参加して、ECのあり方が動くことを実感しました。
商品のための検索エンジンは、これまで無かった
Catalogは、AIエージェントが商品を探すときに直接呼ぶ検索APIと説明されています。すでに、Shopifyで店を運営している事業者——Shopifyではマーチャントと呼びます——何百万社の、何十億という商品が、構造化されたデータとして入っています。Catalogは2年かけて作られ、最初の発表は2025年5月21日でした。当初は一部のパートナー向けでしたが、1年あまりで「全マーチャントの商品が、ストアのデフォルト設定でCatalog掲載」という規模になりました。
自前で作った理由
DotDev Day 2のメインステージでの対談で、Harley FinkelsteinはCEOのTobi Lütkeに、なぜCatalogにそこまで熱を上げるのかと問いました。これに対しTobiは、「本当に、本当に素晴らしい企業がCatalogの上から生まれてくる」と応じました。説明はこう続きます。これまで商品検索を作ろうとする人は、情報検索のために設計された道具を借りるしかなかった。しかし商品には情報検索エンジンが扱う対象とは異なり、数式にならない概念がついて回る。「どれくらいおしゃれか」は、誰が尋ねるかによって変わり、場所によっても——ミラノとオタワで聞くか——変わる。従来、こういった概念はコンピュータが扱うことが難しかったが、人が書いてきたものすべてで学習したAIモデルが、数値や行列として扱えるようになった。そのためShopifyが商品のための検索エンジンをC++の1行目から作ったものがCatalogである。壇上ではもう一段踏み込んで、日々使われている検索エンジンを実際に作ってきたのはGoogleやYahooなどで索引の仕組みを手がけた、ごく少人数の集団だった、と。その人たちが、商品のためのものを作ることに初めて興味を持った、とも。
Shopifyが2026年春のEditionsで紹介した5つのアプリは、どれもCatalogとUCPの上に作られたものでした。動画に映ったものから商品を探すもの、行き先から旅行の持ち物を揃えるもの、その日の占いから必要なものを教えるもの、画像で探すもの、声でボードゲームを薦めるもの。Catalogを使う入口は、ChatGPTのような大きなものだけではありません。
DotDev Day 1の最初のメインステージでのキーノートで、ShopifyのVanessa Lee(VP of Product)が、フォーマル度や場面、快適さといった曖昧な属性で商品を分類する能力(Fuzzy Attribute)を開発中の機能として紹介しました。現時点ではAIが検索することが得意なのは、電子機器やサプリメント、時計のように属性が標準化されていて、商品ページの情報量が多い商品カテゴリです。Fuzzy Attributeにより、商品画像からその商品の「ニュアンスやテイスト」を数値化し、行列計算として扱えるようになれば、AIがより多くの商品を検索し、チャットの向こう側にいる人にとっての最適な商品を見つけることができるようになります。
変わったのは入口
なお、店をまたいで商品を探すこと自体は、Shopアプリで以前からできました。ただしShopアプリは人がアプリを開くことを前提にしています。変わったのは入口です。探す役が人からエージェントに替わりました。
選ばれる前に、候補から消える
ここから、Day 2のShopify Catalogに関するセッション「AI in Commerce, Shopify Catalog, and AI Search Visibility(Kate Ragotte/Kyle Risley)」の中で紹介された、具体的にCatalogで商品検索がどのように行われるかの仕組みについて説明します。
セッション内で、エージェントが人間からの依頼文をどう商品検索に変えるかという図が紹介されました。「防水のハイキング用ジャケット、500ドル以下、カナダに発送、奥地の土砂降りに耐えるもの」というエンドユーザーからの質問を、LLMがまず、概念(レインジャケット)と条件(500ドル以下、カナダ発送)と好み(サイズM、以前買ったブランド、ニッチなブランドが好き)に分解します。ここで、好みは質問文に含まれておらず、そのユーザーとAIの、過去の会話から足されています。
そこから、複数の商品検索が同時に走ります。「backcountry rain jacket」「Gore-Tex rain shell」のように、意図が何通りにも書き換えられて並行して投げられる。同時にウェブ検索も走り、そこで見つかったレビューサイトの推薦商品が、そのまま商品名での検索に変わって並行検索に加わる。返ってきた数百点を、最後にLLMが並べ替えて、ユーザーに見せるものを決めます。

一つ欠けると、すべての枝から落ちる
ここで注目したいのは、絞り込みの条件がすべての枝にかかっていることです。性別の属性が入っていない商品は、一つの検索から落ちるのではなく、走っているすべての枝から同時に落ちます。スライド内では、「一つの項目が欠けているだけで可視性がゼロになりうる」と紹介されています。
検索エンジンにおいては、属性データが充実していない商品は検索結果のランクという連続した目盛りの上で沈んでいましたが、エージェントは条件に合うかどうかで切る仕組みになっています。一つ空いているだけで、目盛りに載る手前で消える。ここが、これまでとは異なっています。

Shopifyが補える範囲
Shopifyが足りない属性を機械学習で補っていることも語られました。ただし、補完し、構造化し、標準化はするが、何もないところから作り出すことはできない、とも。今後、機械学習や画像から情報を取り出す仕組み(Fuzzy Attribute)によって、欠落した属性が自動的にカバーされていく可能性はありますが、その商品の属性に最も詳しいマーチャント自身が、正しいデータを埋めておくことの重要性は高まったと言えるのではないでしょうか。
なお、Catalogでは他にも独自の工夫があり、例えば、同じ商品が店をまたいで何度も並ばないようにShopifyがそれらを束ねる仕組みもあります。どういう基準で束ねているかはShopifyのエンジニアリングブログ(英文)に詳しく書かれていますので、興味のある方はぜひご確認ください。
手が届くのは、三つのうち一つ
Catalogに関するセッションでは、マーチャントがAIの検索に使われるデータをどこまで自分で動かせるかを、三つに分けた図も紹介されました。直接コントロールできるもの、影響を及ぼせるだけのもの、適応するしかないものです。見出しは「マーチャントはすべてのデータを直接コントロールできるわけではない」で、右上に、社会的証明や権威ある情報源を直接コントロールできてしまえば、その価値は薄まってしまう、と注記されています。

直接コントロールできる領域
1つ目は、マーチャントが直接コントロールできる領域です。例としてまず挙げられたのは、商品データの三つの出どころでした。商品ページそのものの記述、Shopify Catalogの商品データ、第三者の商品フィード。この三つに欠けがなく、誤りがなく、互いに食い違っていないことが条件です。
商品データの中では、管理画面の各商品ページから設定ができる、Shopifyのタクソノミーに対応したカテゴリメタフィールドがあります。2024年6月に全ストアへ入った標準タクソノミーとともに来たもので、Shopify側で予め定義されたタクソノミーに自社商品を当てはめる形で利用します。Shopifyの機械学習モデルが、タイトル・説明文・画像・オプション・タグの5つから推測値を入れます。逆に言えば、空欄はその情報が商品データのどこにも書かれていない印です。素材の欄が空なら、説明文のどこにも素材が書かれていない可能性が高い。なお、このうちタグ以外は、そのままエージェントに渡されるフィールドでもあります。
その一方、セッションでは、AIエージェントと会話してゴアテックスで絞り込み、商品ページにたどり着いたのに、ページのどこにも素材としてゴアテックスが書かれていない場合に、最終的に人間は500ドルを出さないだろうというシナリオが紹介されました。裏側のフィールドは候補に残るための道具で、買うかどうかを決めるのは表に書かれていることです。
このほかに、ストアの返品・返金ポリシーの重要性も語られました。エージェントがマーチャントに最も頻繁に尋ねる項目の一つで、それが無いことが発見と成約に影響します。
影響を及ぼせるだけの領域
2つ目は、直接は手が届かないものの、影響を及ぼすことはできる領域です。Catalogのセッションでは、Shopifyの中でよく話している考え方として「マイクロコンセンサス」という言葉が紹介されました。インターネットのあちこちのコミュニティで形成されている小さな合意が、エージェントの推薦の根拠として直接引用されている、という見方です。Ahrefsが約7万5千ブランドを対象にした調査では、YouTubeでの言及がAIでの露出と最も強く相関していました(約0.74)。ブランド名での検索数(約0.35)と比べると差は大きく、ページ数の多さにはほとんど相関がありませんでした。セッションでは、いまの検索順位は引き続き、エージェントに見つけられるかどうかへの強い入力である、ということが強調されました。取って代わられたのではなく、読む相手が増えたという言い方です。この経路は、さきほどのジャケットの図にも出ていました。ウェブ検索で見つかったレビューサイトの推薦が、商品名での検索に変わって候補に加わっています。第三者に言及されることは、順位を押し上げるだけでなく、自社の商品名がエージェント自身の検索語になるということです。
この領域についてマーチャントができることは、例えば買い手が自分の言葉として繰り返せる言い方を渡しておくことです。スキンケアブランドのrhodeが、「うるおうスキンケア」を「グレーズドドーナツ肌」と言い換えたことが象徴的な例として紹介されました。
適応するしかない領域
3つ目の領域です。先ほど、ジャケットをAIエージェントが検索する事例を見ましたが、買い手のサイズと好きなブランドは本人の質問文にはなく、過去の会話から足されていました。パーソナライズの層は、マーチャントが見ることも動かすこともできませんが、AIエージェントの検索では重要な前提になっています。二人の買い手が同じ言葉で尋ねても、走る検索は別物になります。「うちは何位か」に単一の答えが返る前提は、ここで崩れます。動かせない層があることを前提に、動かせる範囲をどう埋めるかを決めることになります。
AIから買う形は、まだ固まっていない
商品が索引に入っていることと、AIチャネルの中で買えることは、同じではありません。ここまで見てきたのは前者で、後者は別の仕組みで作られています。CatalogはShopifyの販売チャネルの一つとして管理画面で制御でき、露出が見合わないと判断すればカタログへの掲載を止めることもできます(要件を満たすストアでは既定で有効で、どのAIチャネルで売るかは管理画面の「販売チャネル > エージェンティック」で選べます)。

一方、買う側の仕組みはまだ固まっていません。Day 1のUCPのセッション「UCP, Shopify, and Google」(Mani Fazeli/Ilya Grigorik)では、同じことを狙った先例が日付とともに挙げられました。Buy on Googleは2023年、MetaのInstagramとFacebook Shopsは2025年に畳まれています。そして直近がOpenAIです。2025年9月にChatGPTの中で決済まで完結する「Instant Checkout」を始めましたが、半年で畳み、2026年3月にマーチャント自身のチェックアウトを使えるようにして、自社は商品の発見に注力すると発表しました。理由に挙げられたのは、最初のInstant Checkoutが、目指した柔軟性を持てなかったことでした。探すのはAIの側、買うのは店の側。いずれも、そこへ寄っています。
Shopifyは、Googleと共同でUCP(Universal Commerce Protocol)という標準を開発しています。仕様は公開されていて、参加者にはAmazonやMeta、Microsoft、Stripeが並びます。世界最大のECであるAmazonが、追う側だったShopifyの作った土俵に上がってきた。
先例について、セッションでの診断は「着想が間違っていたのではなく、それを実現するインフラを持っていなかった」で、そのどれにも自分たちが関わってきた、とも言っていました。20年、数百万のマーチャントと数兆ドルの決済で練習してきた側が作っているものがUCPです。確度は高いと私は見ています。

順番が変わった
これまで積み上げてきたものが効かなくなったわけではありません。検索順位はいまも強い入力のままです。同じセッションでShopifyのSEOを率いるKyle Risleyは、「これまでSEOをやってきた人には馴染みのある話のはずだ。良いSEOと同じ原則を、GooglebotやBingbotとは少し振る舞いの違う相手まで含めた、もっと幅広い顔ぶれに当てはめているだけ」と言っていました。Vanessa Leeも、AIセッションの50%は商品ページに着地していると示したうえで、AIが関わっていてもウェブサイトはまだ取引の中にあると言っていました。サイトの感触、速さ、語っている物語。それがブランドを信用できるかどうかの無意識の判断に効いている、と。
この先が本当にAIエージェント中心の買い物になるのか。私はそうなると思っています。条件を打ち込み、絞り込み、比べ、カートに入れ、配送情報を入力し、決済情報を入力する——買い物のうち面倒な部分は、AIに任せたほうが速い。その相性の良さは、使えばすぐに分かります。ただ現時点ではAI経由の買い物は、オンライン全体からすればまだごく一部で、示されていたのも絶対量ではなく傾きの数字でした。セッションが前年比8倍、注文が13倍。ただしこれは2026年第1四半期の値で、第2四半期にはどちらも約3倍に落ち着いています。
第1回の締めで、Vanessa Leeが会場のパートナーに向けて挙げた3つ——Data・Taste・Distribution——のうち、ここまで扱ってきたのは前の二つです。属性や仕様を書き切ることがデータ、ブランドの言い方を自分で持っておくことが感性にあたります。三つ目、自分だけが持っている関係と信頼はこの先の回に回しますが、エージェントが発見を配り直すとしても、すでに自分の店から買ってくれた人との関係までは配り直せません。

この記事は、Day 1のメインステージでのVanessa Leeによる発表、Day 2のTobi Lütke × Harley Finkelsteinの対談、そしてDay 2のCatalogのセッションから構成しています。前の2つはキーノートと対談として公開されていて、日本語の自動吹き替えもつきます。内容がとにかく面白いので、ぜひ動画のほうもご覧ください。
参考情報
- Shopify Plus(Shopify)
- Introducing Shopify Catalog(Shopify changelog、2025年5月21日)
- 2026年春のEditions(Shopify)
- Shopアプリの紹介(Shopify)
- Shopifyの標準商品タクソノミー(Shopify、英文)
- Catalogの商品クラスタリング(Shopify Engineering、英文)
- AIでのブランド露出と各指標の相関調査(Ahrefs、英文)
- エージェンティックストアフロント(Shopifyヘルプ)
- Buy it in ChatGPT(OpenAI、2025年9月、英文)
- Powering product discovery in ChatGPT(OpenAI、2026年3月、英文)
- UCP(Universal Commerce Protocol)
- UCPの仕様(GitHub、英文)
- Shopify DotDev 2026 キーノート(YouTube)
- Shopify DotDev 2026 Tobi Lütke × Harley Finkelstein 対談(YouTube)