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Columns2025/03/12

ITエンジニアの特別扱い。その甘さは、本当に甘いのか?

【2026年8月 追記】

本記事は組織・キャリア論のオピニオンで、内容は現在も有効です。冒頭の「ITエンジニアは引く手あまた/供給不足」という前提は執筆時点のもので、その後のAIコーディングの普及や採用市場の変化でやや様相が変わりつつあります(本文後段でも「AIの台頭で価値が揺らぎ始めた」と自ら触れています)。「技術だけでなく人としての力が問われる」という主旨は、その変化を踏まえてむしろ強まっています。

フラッグシップCEOの神馬です。

このコラムは、かつて私自身が企業で「唯一のIT担当・Web担当」として働いた経験、そして「エンジニアなのだから」という前提でコミュニケーションを受けてきた経験から生まれた内省です。当時の私は、「エンジニアだから」というだけの理由で、一般のビジネス職に求められる対人スキルや業務理解が免除されていました。事業に必要な機能さえ提供していれば、私のコミュニケーション上の問題(挨拶ひとつまともにできなくても「まあ、あいつはそういう奴だから」で済まされる、といった類のこと)や、業務理解の浅さは大目に見られる。そうして知らず知らずのうちに、私は「特別扱い」という甘い環境に身を置いていました。

その甘さは、本当に甘いのか。それが、このコラムの問いです。

エンジニア優遇の時代が抱える、見えない代償

ITエンジニアは、今や世界中で引く手あまたの職業です。需要は年々高まり、供給は追いつかず、高給・特別待遇が当たり前の世界が続いてきました。企業もまた、レバレッジの効くシステム開発を重視し、「コードを書けるエンジニア」の価値を高く評価してきました。

いや、高く評価するどころではありません。彼らがスムーズに働けるよう、あらゆる場面に仕掛けが用意され、時に「臭いものに蓋をする」形で、居心地のよい環境が整えられてきました。

しかし、この状況は本当にエンジニアにとって理想的なのでしょうか。

あらかじめ断っておくと、これはあくまで「そういう傾向がある」という話であり、すべてを断定するものではありません。そのうえで私は、エンジニアがエンジニアリングだけに向き合うよう仕向けられた結果、一人の大人として成長する機会を奪われてきたのではないか、と考えています。

エンジニアが「甘やかされる」構造

技術が評価され、会社からもチームからも「彼/彼女がいないと困る」と思われる。一見、これほど恵まれた状況はありません。ですがこれは、エンジニアを「職人」として特別扱いすることで、人間としての成長を妨げる構造でもあります。

映画『ソーシャル・ネットワーク』で描かれたように、プログラマーが“ゾーン”に入るとき、外界からの干渉は極端に嫌われ、その集中を断ち切ることはタブーとされます。実際、「フロー状態」を中断されると元に戻るのに20分以上かかるとも言われ、エンジニアの世界、とりわけ優秀な人材に対しては、「コンテキストスイッチのコストを負わせてはならない」という考え方が広く共有されています。

この「ゾーンを守る文化」そのものは、生産性や品質を高めるうえで合理的です。しかし、それが過剰に適用されるとき、皮肉にも“甘やかし”の温床になります。ソフトウェア開発の生産性を最大化するという一点が最優先されるあまり、コミュニケーションや対人関係の未熟さは見過ごされ、人間的な成長は先送りにされてしまうのです。

専門性だけに頼るキャリアの限界

エンジニアが専門職としての道を究めること自体は、まったく悪いことではありません。ただ、その道がいつまでも同じ形で続くとは限りません。

言うまでもなく、コードを書くAIの台頭によって、「プログラムを書ける」ということ自体の価値は揺らぎ始めています。加えて、加齢という単純な現実もあります。40代、50代になれば、かつてほどの体力はありません。経験や技術力があっても、そこで問われる比重は、次第に「人間としての当たり前の力」へと移っていきます。

  • 組織のなかで、円滑に意思疎通を図れるか
  • ビジネスの課題を理解し、エンジニアリング以外の問題にも向き合えるか
  • 難しい対話から逃げずに、他者と向き合えるか

年齢を重ねてから、こうした力の不足に直面し、「今さらどうしようもない」と感じる——それは十分にあり得ることです。技術だけを頼りに生きてきた結果、人としての成長が止まったままでは、キャリアの、そして人生の選択肢そのものが狭まってしまいます。

エンジニアを「一人前の大人」として扱う

当社では、エンジニアを特別扱いしません。技術力があるからといって、人としての成長を後回しにすることは認めません。

  • 向き合うべき人間性やコミュニケーションの課題からは、逃げません
  • ダメなものは、ダメとはっきり伝えます
  • つまり、「一人前の大人」として扱います

エンジニアが職人としての人生に安住することなく、人としても成長していける環境をつくること。それが、私たちの目指す組織のかたちです。

もしあなたがエンジニアで、一人、あるいは少人数の組織で活躍の幅を広げているのなら、それはそれで得がたい経験でしょう。ただし——よほど人間ができていて、かつITにも通じた経営者のもとでない限り、その環境は常にこの「罠」と隣り合わせにあると言わざるを得ません。

一方、エンジニアが多くいる組織で、尊敬できる先輩に恵まれれば、同じ土俵に立つ者として、妥当な厳しさを期待できるでしょう。

これからのエンジニアは、技術だけでなく、人としての強さを問われる時代に入っています。成長の機会を逃さないために、いま自分に何が必要なのかを、あらためて問い直してみてください。

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